子ども兵士問題について


●子ども兵士とはなにか● 

 「子どもの権利条約」第38条では武力衝突に徴用され参加するための最低年齢を15歳としている。だが一方で、「子どもの権利条約」第1条は子どもの定義を18歳未満のすべての者としている(アムネスティ・インターナショナル日本2008)。国連に任命された専門家のマシェルは、「子どもの権利条約」第1条に従い、武力紛争に徴兵され参加するための年齢は18歳未満であってはならないと指摘する(ブレット&マカリン1996)

 

●なぜ子どもが兵士になるのか● 

 子どもが兵士になる原因は様々な側面が複合的に絡み合って形成されている。特に以下の4つの原因があげられる。第一に、多くの子ども兵士が示す理由として、子ども兵士の家庭の経済的な貧困があげられる(アムネスティ・インターナショナル日本2008)。第二に、第二次世界大戦後の紛争の本質の変化により市民が戦闘にかかわりやすくなったということがあげられる。そして第三に、武器の小型化・軽量化により子どもが武器を使いこなすことができるようになったことがあげられる(ブレット&マカリン1996)。最後に第四の原因として、子どもの性質が従順な兵士をつくることに好都合であることがあげられる。

 

●子ども兵士の処遇 と困難な社会復帰● 

 子ども兵士は武装組織の中でどのような現実と直面しているのか。子どもたちは入隊の直後から恐怖の経験をすることが多い。たとえば、アルコール・売春の強要(ブレット&マカリン1996)、ライフルの床尾による打撲、たばこの火の皮膚への押し付け、さらには敵・親族・家族の殺人の強要(シンガー2005)といった経験をする。そして、入隊当初は、使用人、警備、パトロール、検問所などといった軍隊の後方支援の任務に配置され、ときがたつにつれて、訓練を経て次第に直接的な戦闘行為に関わるようになる。この過程の中で、多くの武装組織の訓練に特徴的なことは、命令に従うことができなかった者への極度の体罰・みせしめ、そして逃亡者の殺害などの厳格な規律と死への脅威を子どもたちに顕示することである(シンガー2005)


 また、直接的な戦闘行為の際、とくに子ども兵士は前線に大人の兵士の弾除けとして送られることが多い。そのため、より負傷しやすい状態に置かれている。また子どもの判断能力を鈍らせるためにアルコールや麻薬を服用させられ、中毒になる子ども兵士もいる(ブレット&マカリン1996;シンガー2005)。さらに、少女たちの多くは性的に虐待を受け、幼くして妊娠と出産あるいは中絶を経験するが、妊娠後の選択にかんしても組織により強制されることが多い(Grac’a Machel,1996;アムネスティ・インターナショナル日本,2008)


 元子ども兵士はこうした処遇のために、身体的、精神的障害を負い、社会生活を営むことが難しくなる(Derluyn et al. 2004 ; Beyer et al. 2007; Betancourt 2008)。さらに、自身が兵士であった時に犯したことに対する家族・地元の人々からの非難や報復への恐れは、元子ども兵士が兵士になる以前に住んでいたところに戻りにくくしている。また、彼らの家族自身も戦争下で疲弊し、元子ども兵士を受け入れられる状況ではないという問題もある(ブレット&マカリン1996)


 よって、元子ども兵士の除隊後の生活は、元子ども兵士自身が抱える問題と彼らの周囲の状況が抱える問題が重なり合うことで、より複雑で困難になっている。そのため、子ども兵士の除隊後の生活を強化することを支援団体が考えるときには、子ども兵士の身体的・精神的などの状況と同時に、彼らが存在している周囲の状況を分析する必要がある。さらにそれに基づき、支援が子ども兵士と周囲の人々にとってどのような印象や影響をもたらす可能性があるのかを追及する必要がある。

 

(ARC 妻木円香)

 

《参考文献》
 ・Bayer, Christophe Pierre, Fionna Klasen & Hubertus Adam.,(2007),Association of Trauma and PTSD Symptoms With Openness to Reconciliation and Feeling of Revenge ChildSoldiers,AmericanMedical Association,vol298;5,555-559

・Betancourt, Theresa S.,Stephanie Simmons,Ivelina Borisova,Stephanie E.Brewer,Uzo Iweala & Marie de la Soudiere,(2008),High Hope ,Grim Reality : Reintegration

and the Education of Former Child Soldiers in Sierra Leone,Comp Educ Rev,Nov 1;52(4):565-587.
・Derluyn, Ilse , Eric Broekaert & Gilberte Schuyten,Els De Temmerman.,(2004),Pos-t traumatic stress in former Ugandan child soldiers , THE LANCET , vol.363 ,861-863 

・Machel,Grac’a,(1996),Impact of armed conflict on children,UN report,10-16,55-57

アムネスティ・インターナショナル日本,(2008),『銃を持たされる子どもたち:子ども兵士』,リブリオ出版.

・シンガー,P.W., (2006)『子ども兵の戦争』NHK出版.

・ブレッド,レイチェル&マーガレット・マカリン著,渡井理佳子訳(2002)『世界の子ども兵-見えない子どもたち』,新評論.